新たに事業をはじめたいけれど資金が足りないという場合、日本政策金融公庫から融資を受ける方法があります。日本政策金融公庫は、民間の金融機関とくらべて、低い金利でお金を借りられる点が魅力です。
しかし自己資金の要件にも注意が必要です。本日は創業融資における自己資金の定義や注意点を解説します。
目次
新創業融資制度とは
新創業融資制度は日本政策金融公庫が貸付ている融資制度です。新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方を対象にしています。原則として無担保・無保証人で、最大3,000万円(そのうち運転資金は1,500万円)までの融資が可能です。
自己資金は1/10程度は必要
ただし、これから創業する方や創業後に税務申告を1期終えていない方は、創業に必要な資金の10分の1以上の自己資金がないと、新創業融資制度の申し込みができません。
実際の融資では、自己資金の3倍程度が相場となっています。あくまで10分の1以上の要件は最低ラインの要件と認識しておいたほうがいいでしょう。
審査では、この自己資金を重点的にチェックされます。統計的に見ても、借りられる金額は自己資金に比例しています。
自己資金が不足すると審査上不利?
自己資金とは、「返済義務のないお金」のことを指します。つまり、借入や負債とは異なり、誰にも返さなくて良い資金です。典型的な例としては、給料から積み立てた貯蓄が挙げられます。これは誰にも返済する必要がなく、純粋に自己の資産です。
自己資金が不足していても、創業資金の融資に成功された経営者は多く、様々な工夫を凝らして、自己資金扱いされる資金を膨らませる方法もあります。ただ、自己資金が多いほうが、審査は有利であることは確かです。
自己資金が少ないほど、資金繰りが破綻するリスクが高いと見られてしまうのです。また、審査担当者は自己資金が足りないと、起業準備の努力や計画性が足りないと判断する傾向があります。
自己資金の定義とは
ところで自己資金とはいったいどんな資金でしょうか?当たり前のことかもしれませんが、まずはこの基本的な概念から確認しておきましょう。
自己資金とは、簡単に言えば、「誰にも返す必要がないお金」です。「返さなければならないか否か」が、判断の分かれ目です。
例えば、給料から少しずつ、蓄えたお金は、だれにも返済義務をおいません。これは、自己資金の典型例です。
親や親戚から借りたお金は自己資金?
一方で、借金をして手に入れたお金は、自己資金とはいいません。いつか返さなければならないからです。
親から渡されたお金であっても、親が明確に贈与の意思を示していなければ自己資金とはみなされない可能性があります。いつか親から返済を求められるかもしれないからです。たとえ、形式的に贈与契約書があっても、親の財務状況が悪ければ、将来、返してくれと言われるかもしれないので、自己資金とはみなされないこともあります。
自己資金は厳しくチェックされる
日本政策金融公庫を使うためには自己資金が必要、と聞いて「審査時にだけお金を用意しておけばよいのでは」と考えた人もいるかもしれません。しかしそういった見せ金が通用するほど、公庫の審査は甘くありません。
基本的に融資審査では、半年分程度の入出金がわかる銀行通帳の原本の提出が求められます。生半可な見せ金工作は、通帳をチェックするだけで見破られてしまうでしょう。
自己資金を充当する方法
ですので、自己資金が不足しているときは、さまざまな方法で自己資金を補う必要があります。主な手法をご紹介しましょう。
- 家族からの贈与:親、兄弟、親類からの贈与には贈与契約書が必要です。贈与者の財務状況が安定していれば、これらの資金は自己資金として認められます。
- 第三者割り当て増資:第三者からの出資がある場合、出資の理由が明確であれば、これも自己資金として認められます。
- みなし自己資金:既に使用した資金でも、事業用として使われたことが証明できれば、自己資金として扱われることがあります。
- 現物出資:事業用資産として使用されることが明確に説明できれば、その分だけ銀行の評価が上がります。
- 退職金:近い将来に退職して受け取る予定の退職金が明確であれば、自己資金として考慮されることがあります。
- 資産売却代金:売却した資産に関する売買契約書などの証憑が必要です。
- 塩漬け株式や解約返戻金のある保険:これらを売却または解約して資金を得る場合、使用可能な資金としてアピールすることができます。
- 配偶者名義の預金:配偶者名義の預金を出資するか、使用可能な資金として提示することが可能です。
自己資金の注意点
一時的に借り入れたお金を自己資金に見せかけられないかという誘惑に駆られる方が結構います。この見せかけのお金のことを見せ金というのですが、見せ金の利用は、簡単に見抜かれてしまうことが多いということをご理解ください。
審査のときには、通帳の持参を求められます。まとまったお金がいきなり、通帳に振り込まれていればとても目立ちます。一時的な借金の場合は、その振り込まれたお金の出所について裏づけをしめすことができないので、簡単に見せ金であると見抜かれてしまいます。
日本政策金融公庫や信用保証協会などは、過去6ヶ月以上前に遡って通帳を確認します。最近は、1年近く前にさかのぼって通帳を確認することもあります。不自然な入金があり、それが見せ金であると判断されると著しく信用を損なうこととなります。
いろんな口実を考えるひとがいますが、あれこれと口頭で弁明しても、裏づけ資料がきっちりと示されなければ信じてもらえません。立証責任はこちら側にあります。もし、疑いをはらすことができなければ、お金は貸してもらえません。裁量権は、あくまで銀行側にあります。証拠をこちらが示せなければ、銀行側には融資を断る権利があるのです。銀行には融資を断った理由を開示する義務もありません。
①見せ金と誤解されないようにする
本当に自分のお金である場合にも、注意が必要です。通帳から判断して少しずつためていったお金であることが明らかであれば誤解されることはありませんが、問題は、一時的に資金移動があった場合です。
自己資金が本当に自分のものであることを証明するために、通帳の履歴などを使って資金の蓄積過程を明確に示しましょう。一度に大きな金額が振り込まれた場合は、その理由を証明できる書類(売買契約書など)を準備してください。
まとまったお金が突如、通帳に払い込まれているので借入による見せ金なのか、自己資金であるかがはっきりしません。見せ金と疑われただけで、銀行から融資を断られることがあります。見せ金ではないかと疑われないためには、出資の経緯等をきちっと説明できるようにしておきましょう。
②親や兄弟などからのお金を借りる
家族からの金銭的支援がある場合は、贈与契約書など公式な書類を用意してください。単に通帳に大きな金額が振り込まれているだけでは、贈与の意思が明確にないと自己資金とは見てもらえないか可能性もあります。
③友人や知人に出資してもらう
自己資金が不足した場合には、友人・知人からの出資を受ける方法もあります。株主になってもらい、お金を出してもらうのです。出資してもらった分だけ会社の自己資本は大きくなります。
友人や知人からの出資を受ける場合は、出資者との関係や出資によるメリットを明確に説明できるようにしてください。万が一、出資を受けたとしても、経営を安定させるために議決権の過半数を確保しておくことが資本政策上重要です。
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兵庫県出身、関西学院大学卒。調達件数100社以上、成功確率80%超。
東証プライム上場の事業会社→コンサルファームを経て2023年起業。経営者の新たな挑戦をサポートするため、事業再構築補助金やものづくり補助金、融資等を活用した資金調達支援やインキュベーション事業、イベント事業を提供しています。
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