雇用関係助成金の申請方法と対象者|個人事業主・創業直後でも使える?2026年
この記事の要点
雇用関係助成金は雇用保険に入る従業員が1人以上いれば個人事業主や創業直後でも申請できます。人を雇う中小企業・個人事業主向けに、対象条件、社労士への依頼、必要書類、併給の制限、申請から入金までの流れを整理します。
この記事の目次
厚生労働省の雇用関係助成金は、雇用保険に入っている従業員が1人以上いる事業所なら、個人事業主でも創業直後の会社でも申請できます。
反対に、社長1人だけの会社など従業員を雇っていない事業主は、共通の支給要件を満たしません。
申請は事業主本人か社会保険労務士が行い、多くの助成金は取組を終えた後、助成金ごとに決められた日の翌日から原則2か月以内に申請します。
人を雇った、パートを正社員にしたい、と考えている社長が「うちも助成金をもらえるのか」と迷う場面は多くあります。この記事では、厚生労働省の共通要領(令和8年4月8日現在)とキャリアアップ助成金の案内(令和8年度版)をもとに、使える会社の条件、誰が申請するか、必要書類、申請から入金までの流れを整理します。
雇用関係助成金を使える会社の条件は?雇用保険の適用事業所であること
雇用関係助成金を受けるには、雇用保険の適用事業所の事業主で、申請日と支給決定日の両方に雇用保険の被保険者がいることが条件です。
雇用関係助成金とは、厚生労働省が事業主向けに設けている助成金の総称です。キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金、両立支援等助成金など、名前の違う助成金がいくつもあります。どの助成金にも共通するルールは「雇用関係助成金支給要領(共通要領)」にまとめられています。
共通要領で決まっている4つの条件
共通要領では、次の4つにすべて当てはまる事業主を支給対象としています。
- 雇用保険の適用事業所の事業主で、支給申請日と支給決定日の時点で雇用保険の被保険者がいること
- 審査や調査に必要な書類を整えて保管していること
- 労働局から書類の提出や実地調査(担当者が事業所に来て確認すること)を求められたら協力すること
- それぞれの助成金の要領で決められた要件も満たすこと
4つめの「それぞれの要件」が、助成金ごとの本題です。たとえばキャリアアップ助成金では、事業所ごとにキャリアアップ管理者を置き、取組の前日までにキャリアアップ計画を労働局に出すことが求められます。
受け取れなくなる事業主
共通要領には「不支給要件」もあり、次のような事業主には支給されません。
- 不正受給で不支給措置を受けている期間中の事業主(期間は5年間)
- 申請日の属する年度より前の年度の労働保険料を納めていない事業主
- 申請日の前日から1年前までの間に労働関係の法令違反で送検されるなどした事業主
- 風俗営業等の事業主(助成金によって制限の範囲が異なります)、暴力団関係の事業主
- 申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
- 申請書類に事実と違う記載や証明をした事業主
このほか、国や地方公共団体には支給されません。資本金や従業員数で「中小企業事業主」に当たるかどうかは、助成額を決めるときに使われます。たとえば小売業(飲食店を含む)は資本金5,000万円以下または常時雇用する労働者50人以下、製造業などその他の業種は3億円以下または300人以下が中小企業事業主です。
出典:厚生労働省『雇用関係助成金支給要領(共通要領)令和8年4月8日現在』p.5〜10『0202 中小企業事業主』『0301 支給対象事業主等』『0302 不支給要件』
個人事業主・1人会社・創業直後でも申請できる?
個人事業主も創業直後の会社も、雇用保険の被保険者になっている従業員がいれば申請できますが、社長1人だけの会社は対象になりません。
この3つは、どれも「雇用保険に入っている従業員がいるか」で判断が分かれます。
個人事業主と1人会社、創業直後の会社について、共通要領と雇用保険制度Q&Aから読み取れる扱いをまとめた表です。
| 事業主の状況 | 申請できるか | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 個人事業主で、従業員を雇用保険に加入させている | 申請できる | 共通要領Q&Aで「雇用保険適用事業所であれば、個人事業主も申請できる」とされている |
| 社長(役員)1人だけの会社 | 申請できない | 会社の取締役や役員は原則として雇用保険の被保険者にならず、被保険者がいない状態になる |
| 創業直後で、従業員を雇用保険に加入させている | 共通要件の上では申請できる | 共通要領の支給対象事業主の条件に、創業からの年数の定めはない |
| 家族だけで営む個人事業 | 多くは申請できない | 同居の親族は原則として雇用保険に加入できない(例外の条件あり) |
雇用保険に入る従業員の条件
雇用保険は、労働者を1人でも雇えば原則として適用されます(個人経営の農林水産業で常時5人未満の場合は任意適用)。パートやアルバイトでも、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇う見込みがあれば、原則として被保険者になります。週3日・1日5時間のパートなら週15時間なので、この条件には届きません。
創業直後の会社が気をつける点
創業直後でも共通の条件は満たせますが、助成金ごとの要件で時間がかかる場合があります。キャリアアップ助成金の正社員化コースなら、正社員に転換した後に6か月分の賃金を払ってから申請するため、申請までに少なくとも半年以上かかります。創業すぐに使える国の補助金は起業直後・創業から使える補助金にまとめています。
出典:厚生労働省『雇用保険制度Q&A~事業主の皆様へ』Q1・Q2・Q4・Q5
誰が申請する?事業主本人か社会保険労務士
雇用関係助成金の申請者は事業主で、社長や担当の従業員が自分で出すか、社会保険労務士(社労士)や弁護士に依頼して出すことができます。
共通要領Q&Aでは、「社会保険労務士や弁護士に代理人として依頼することができます」と明記されています。社労士が関わるときは、申請書に「提出代行者」または「事務代理者」と書き、社労士の名称を記載するルールです。従業員が書類を窓口に持っていくだけなら「使者」の扱いで、委任状はいりません。
社労士以外には頼めない
助成金の申請書を作って労働局に出す作業は、社会保険労務士法で社労士の業務と定められています。全国社会保険労務士会連合会は、キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金などを例に、社労士でないコンサルティング会社などが報酬を得てこの作業を業として行ってはいけない、と案内しています。違反した側には1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。
共通要領Q&Aでも、社労士でない者が反復して申請に関わる場合は社会保険労務士法第27条違反の可能性があると注意しています。「書類作成まで全部やります」と営業してくる会社が社労士事務所かどうかは、契約前に確かめます。
自分で申請する場合の手間
自分で申請することはできますが、手間は小さくありません。正社員化コースの例では、取組の前にキャリアアップ計画を出し、就業規則を改め、転換後6か月の賃金を払い、そのうえで申請書と添付書類をそろえます。就業規則や賃金台帳の中身が助成金の要件と食い違うと、その時点で支給されないことがあります。
社労士や代理人に頼んでも、申請するのは事業主です。支給決定通知は代理人ではなく事業主あてに届き、社労士や代理人が不正に関わった場合も事業主の不正受給として扱われます。
出典:厚生労働省『雇用関係助成金共通要領Q&A(令和8年9月14日)』Q13・Q14・Q22
申請に必要な書類は?共通の3点と助成金ごとの添付書類
どの雇用関係助成金でも、支給申請書、支給要件確認申立書、添付書類の3つを、事業所を管轄する都道府県労働局に出します。
共通要領で決まっている書類と、正社員化コースの第1期で求められる主な添付書類を並べた表です。
| 書類 | どんな書類か | いつ必要か |
|---|---|---|
| 支給申請書 | 助成金ごとの様式(正社員化コースは様式第3号と別添様式) | 毎回 |
| 支給要件確認申立書(共通要領 様式第1号) | 不支給要件に当たらないことを事業主が申し立てる書類 | 毎回(雇用関係助成金ポータルで申請する場合を除く) |
| 支払方法・受取人住所届 | 助成金を振り込む口座の届出 | 口座が未登録か、変更があるとき |
| キャリアアップ計画書(写) | 労働局に受理された計画書 | 正社員化コース |
| 転換前後の就業規則または労働協約(写) | 正社員転換の規定があるかを確かめる書類 | 正社員化コース |
| 転換前後の雇用契約書または労働条件通知書(写) | 対象の従業員の雇用形態の変化を示す書類 | 正社員化コース |
正社員化コースの案内では、支給要件確認申立書の問4〜16に「いいえ」があると支給を受けられない、と書かれています。電子申請なら、原本を求められる添付書類も写しで足ります。
出した書類の原本(電子データを含む)は、支給決定日の翌日から5年間保存します。社労士に頼んだ場合も、提出書類の写しを受け取って保存しておく決まりです。厚生労働省は、助成金ごとの申請書類のチェックリストも公開しています。
出典:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)』p.24『支給申請時の提出書類』
複数回・複数の助成金は受けられる?
同じ助成金でも要件を満たせば次の対象者で申請できますが、同じ取組や同じ人件費について2つ以上の助成金を同時に受けることはできません。
共通要領では、同一の事業主が「同一の経費又は賃金の支出について、同時に二つ以上の助成金」を受けることを認めていません。これを併給調整といいます。共通要領Q&Aは、同じ目的や同じ対象労働者の人件費に二重に助成するのは助成金の目的から外れるため、と理由を説明しています。
回数の上限は助成金ごとに違う
何回申請できるかは、助成金ごとの要領で決まります。キャリアアップ助成金の正社員化コースは、1年度1事業所あたり20人までが申請の上限です(同じ人の2回目の申請は数えません)。正社員化コースの令和8年度の中小企業の助成額を、転換の内容ごとに並べた表です(1人あたり)。
| 転換の内容 | 中小企業(万円) |
|---|---|
| 有期雇用→正規雇用(重点支援対象者) | 80(40×2期) |
| 有期雇用→正規雇用(上記以外) | 40(40×1期) |
| 無期雇用→正規雇用(重点支援対象者) | 40(20×2期) |
| 無期雇用→正規雇用(上記以外) | 20(20×1期) |
重点支援対象者とは、雇い入れから3年以上たった有期雇用の従業員などを指します。助成額や要件は年度ごとに改正されるため、最新の支給要領で確認が必要です。
出典:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)』p.6・p.14『正社員化コース』
どの助成金同士が一緒に受けられないかは、厚生労働省の「併給調整早見ツール」で確かめられます。経済産業省系の補助金と組み合わせるときの考え方は補助金の併用で扱っています。
申請から入金までの流れは?正社員化コースの例で7ステップ
雇用関係助成金の多くは「計画を出す、取組をする、賃金を払う、申請する」の順で進み、お金は取組を終えて申請し、支給決定を受けた後に振り込まれます。
キャリアアップ助成金の正社員化コースを例に、申請から入金までの手順を並べます。
- キャリアアップ管理者を決める(事業所ごとに1人、他の事業所との兼任は不可)
- キャリアアップ計画を作り、正社員転換の前日までに管轄の労働局へ出す(案内では1か月前など余裕を持った提出を勧めています)
- 就業規則に正社員転換の規定がなければ、規定を設ける
- 就業規則に沿って、有期雇用などの従業員を正社員に転換する
- 転換後6か月分の賃金を払う(転換前6か月と比べて3%以上増やす)
- 6か月分の賃金を払った日の翌日から2か月以内に、労働局へ郵送か電子申請で申請する
- 審査を経て支給決定されると、登録した口座に振り込まれる
郵送の場合は、申請期間内に労働局へ届いている必要があります。期限を過ぎた申請は、天災などやむを得ない理由がある場合を除き受け付けられません。
電子申請にはGビズIDがいる
電子申請は「雇用関係助成金ポータル」から行い、GビズIDの取得が必要です。社労士に頼む場合も、事業主側でGビズIDを取ります。取り方はGビズIDの記事にまとめています。特定求職者雇用開発助成金だけは、ポータルではなくe-Govから電子申請します。
申請から入金までに何か月かかるかは、厚生労働省の共通要領やQ&Aに目安が書かれていません。正社員化コースなら、転換から申請まで賃金6か月分の期間があり、申請期限の2か月を含めると最長8か月です。入金はその後になるため、その間の人件費は自社の資金で払う前提で計画します。
出典:厚生労働省『雇用関係助成金の電子申請』
専門家から見たポイント
雇用関係助成金で失敗しやすいのは、取組の前にやるべき届出を忘れることと、就業規則や賃金台帳が要件に合っていないことの2点です。
向いている会社
雇用関係助成金が向いているのは、雇用保険に入っている従業員がいて、これから人を雇う、パートを正社員にする、研修をする、といった予定がはっきりしている会社です。対象になるのは設備の購入ではなく、正社員化や研修といった雇用まわりの取組です。違いは補助金と助成金の違いで詳しく比べています。
支給につながる準備
- 取組の前に出す書類(キャリアアップ計画など)を先に確かめる。正社員化コースは、計画に書いていないコースの取組では受給できません。
- 雇用契約書や賃金の記録を日ごろから整えておく。共通要領は、審査に必要な書類の整備と保管そのものを支給の条件にしています。
- 労働保険料の納付状況を確かめる。前年度より前の分に未納があると、不支給要件に当たります。
よくある失敗
- 就業規則に正社員転換の規定がないまま転換してしまい、要件を満たさない
- 賃金を払った日から2か月の申請期限を過ぎる
- 「確実にもらえる」と勧誘してきた社労士でない業者に任せ、事実と違う書類が出てしまう
不正受給と判断されると、受け取った額の返還に加えて、年3%の延滞金と返還額の2割に当たる額を納めます。事業主名が原則として公表され、5年間は雇用関係助成金を受けられません。厚生労働省や労働局、ハローワークが民間業者に助成金の勧誘を任せることはありません。
出典:厚生労働省『雇用関係助成金支給要領(共通要領)令和8年4月8日現在』p.18〜20『0702 不支給措置』『0705 公表』『0801 返還』
よくある質問
個人事業主や1人会社でも受けられる?
個人事業主は、雇用保険に入っている従業員がいれば受けられます。社長1人だけの会社は、役員が原則として雇用保険の被保険者にならないため、雇用関係助成金の共通の条件を満たしません。人を雇っていない段階では、補助金のほうが選択肢になります。
創業したばかりでも申請できる?
創業直後でも、雇用保険に入っている従業員がいれば申請できます。共通要領の支給対象事業主の条件に、創業からの年数の定めはありません。ただし助成金ごとの要件で、取組の後に6か月分の賃金を払ってから申請するなど、申請までに時間がかかるものがあります。
助成金はどんな会社が使える?
雇用保険の適用事業所で、申請日と支給決定日に雇用保険の被保険者がいる事業主が対象です。労働保険料の未納や1年以内の労働関係法令違反などの不支給要件に当たらず、助成金ごとの要件も満たす必要があります。中小企業事業主かどうかは、資本金か常時雇用する労働者の数で判定し、助成額の区分などに使われます。
助成金は簡単に申請できる?
自分で申請はできますが、手間は小さくありません。取組の前の計画届、就業規則の改定、賃金の支払い、期限内の申請と、半年以上にわたる手順を順に守る必要があります。不安があれば社労士に相談すると、書類と就業規則の食い違いを事前に確かめられます。
助成金は誰が申請する?
申請者は事業主です。社長や従業員が自分で出すほか、社会保険労務士や弁護士に依頼できます。報酬を受けて申請書類の作成や提出を業として行えるのは社労士(社労士法人)で、社労士でないコンサルティング会社には頼めません。
申請に必要な書類は?
共通して必要なのは、支給申請書、支給要件確認申立書、添付書類です。添付書類は助成金ごとに違い、キャリアアップ助成金の正社員化コースではキャリアアップ計画書、転換前後の就業規則と雇用契約書などの写しを出します。出した書類は支給決定日の翌日から5年間保存します。
複数回申請できる?
助成金ごとの上限の範囲で、複数回申請できます。正社員化コースなら1年度1事業所あたり20人までです。ただし同じ取組や同じ人件費について、2つ以上の助成金を同時に受けることはできません。
ほかの質問はよくある質問(助成金)にまとめています。
まとめ
雇用関係助成金を使えるかどうかは、雇用保険に入っている従業員がいるかで最初に分かれ、そのうえで労働保険料の納付や法令違反の有無、助成金ごとの要件で決まります。次にやることは、使いたい助成金の「取組の前に出す書類」と申請期限を確かめ、就業規則と賃金台帳が要件に合っているかを見直すことです。助成金と補助金のどちらが自社に合うか、設備投資の補助金と組み合わせられるかは、専門家に相談していただければお答えします。
参考資料
- 厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」
- 厚生労働省「雇用関係助成金の申請にあたって」(共通要領・申請様式・併給調整早見ツール)
- 厚生労働省「雇用関係助成金支給要領(共通要領)」(令和8年4月8日現在)
- 厚生労働省「雇用関係助成金共通要領Q&A」(令和8年9月14日)
- 厚生労働省「雇用関係助成金の電子申請」
- 厚生労働省「雇用関係助成金ポータル」
- 厚生労働省・都道府県労働局「キャリアアップ助成金のご案内」(令和8年度版)
- 厚生労働省「雇用保険制度Q&A~事業主の皆様へ」
- 厚生労働省「助成金に関する勧誘にご注意ください」(リーフレット)
- 全国社会保険労務士会連合会「社労士じゃナイト、出来ないことがある。」
確認日:2026年10月13日
中小企業診断士 神谷 恒一が内容を確認しました(2026年10月13日)。
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