業務改善助成金とは?賃上げと設備投資をセットで使う条件と手順
この記事の要点
業務改善助成金は、事業場で最も低い時給を引き上げ、生産性を上げる設備投資を行った中小企業に、厚生労働省が費用の一部を助成する制度です。助成額の決まり方、対象の事業場と設備、申請から支給までの期限、補助金と組み合わせるときの注意を整理しました。
この記事の目次
業務改善助成金は、事業場で最も低い時給を決まった額以上引き上げ、あわせて生産性を上げる設備投資などを行った中小企業に、設備投資の費用の一部を厚生労働省が助成する制度です。
助成額は、引上げ額のコースと引き上げる人数で決まる上限額と、設備投資の費用に助成率をかけた額の低いほうです。申請の受付は地域別最低賃金の改定に合わせて年度ごとに決まり、短い期間で締め切られます。
最低賃金の引上げに合わせて時給を上げる予定があり、その機会に設備を入れて人手不足も解消したい方に向けた記事です。
厚生労働省の業務改善助成金(令和8年度)について、助成の額と率、対象になる事業場、対象の設備投資、申請から支給までの期限を、厚生労働省の公式ページ・交付要綱・リーフレットの記載で整理します。数字は令和8年度のもので、年度ごとに変わるため最新は公式ページで確かめてください。
業務改善助成金で出る額と助成率の決まり
業務改善助成金の額は、設備投資などの費用に助成率をかけた額と、コースと人数ごとの上限額を比べ、低いほうになります。助成率は、事業場内最低賃金が1,050円未満なら5分の4、1,050円以上なら4分の3です(令和8年度)。
事業場内最低賃金とは、その事業場で雇入れから6か月を過ぎた労働者のうち、最も低い時間あたりの賃金のことです。コースは、この賃金を何円引き上げるかで50円・70円・90円の3つに分かれます。
| 引き上げる人数(令和8年度) | 50円コース | 70円コース | 90円コース |
|---|---|---|---|
| 1人 | 30万〜40万円 | 40万〜50万円 | 90万〜100万円 |
| 2〜3人 | 40万〜70万円 | 50万〜100万円 | 150万〜240万円 |
| 4〜5人 | 70万円 | 130万円 | 270万円 |
| 6〜7人 | 90万円 | 180万円 | 360万円 |
| 8人以上 | 110万円 | 230万円 | 450万円 |
| 10人以上(特例事業者のみ) | 130万円 | 300万円 | 600万円 |
出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」(リーフレット)助成上限額の表
1人と2〜3人の区分は、事業場の規模(30人未満かどうか)で上限額が分かれるため幅で示しています。たとえば50円コースで3人の時給を上げ、設備に100万円をかける場合、100万円×助成率と上限額を比べて低いほうが助成額です。
助成金と補助金の仕組みの違いは補助金と助成金の違いで取り上げています。
対象になる事業場と賃金の引上げ方
対象になるのは、中小企業・小規模事業者の事業場のうち、事業場内最低賃金が令和8年度の地域別最低賃金に届いていない事業場です。申請は会社ごとではなく事業場ごとに行います。
- 会社の規模:中小企業・小規模事業者で、大企業と密接な関係のある「みなし大企業」でないこと。
- 賃金の水準:事業場内最低賃金が、令和8年度の地域別最低賃金より低いこと。
- 引き上げる人:週の所定労働時間が20時間以上で雇用保険に入っている労働者。
- 不交付の事由が無いこと:申請の前後に解雇や賃金の引下げなどがあると対象外です。
引上げは、交付要綱の第4条にあるとおり、引上げ後の時給を事業場の最も低い賃金として就業規則などに定めて行います。地域別最低賃金の改定に合わせて上げる場合は、発効日の前日までに引き上げます。労働者がいない個人事業主は対象になりません。
出典:厚生労働省「業務改善助成金」公式ページ(特例事業者・対象事業者)
雇用関係の助成金全般の申請の流れは雇用関係助成金の申請方法で取り上げています。
助成の対象になる設備投資と対象外
助成の対象は、生産性を上げ、労働能率を高める設備投資やコンサルティングで、費用が10万円以上のものです。リーフレットには、POSレジによる在庫管理の時間の短縮、リフト付きの特殊な車両による送迎時間の短縮、国家資格者による業務の流れの見直し、顧客情報のシステム化が例として載っています。
交付要綱の別表第3が定める経費の区分は、謝金、旅費、借損料、印刷製本費、原材料費、機械装置等購入費、造作費、経営コンサルティング経費、委託費です。
- 対象外になるもの:交付決定の前に導入した設備、特殊な用途の車を除く自動車、パソコンなどの端末(一般の事業者の場合)。
- 特例で対象になるもの:物価高騰などで利益率が下がった特例事業者は、パソコン・スマートフォン・タブレットなどの新規の導入も対象になります。
特例事業者とは、事業場内最低賃金が1,050円未満の事業者(賃金要件)か、申請前の直近6か月の平均の利益率が前年の同じ時期より3ポイント以上下がった事業者(物価高騰等要件)のことです。物価高騰等要件で申請するときは、事業活動の状況に関する申出書を出します。
出典:業務改善助成金交付要綱(令和8年度)第4条・別表第3
人手不足の解消に使える補助金は省力化・省人化に使える補助金で比べています。
申請から支給までの手順と期限の決まり
申請から支給までは、交付申請、交付決定、設備投資と賃金の引上げ、事業実績報告、支給の順に進み、設備の導入は交付決定の後に行います。令和8年度の申請期間は「令和8年9月1日〜地域別最低賃金の発効日の前日か11月30日の早い日」で、都道府県によっては9月末で締め切られました。
- 賃金の引上げ計画と設備投資の計画を立て、見積書を添えて、事業場のある都道府県の労働局に交付申請する。紙かJグランツ(GビズIDプライムが必要)で出します。
- 交付決定の通知を受ける。
- 計画どおり賃金を引き上げ、設備を導入して代金を支払う。納品・支払い・引上げは、交付決定の年度の1月31日までに終えます(やむを得ない理由があれば、事前の申請で3月31日まで延ばせる場合があります)。
- 事業の完了から1か月以内か、翌年度の4月10日の早い日までに、事業実績報告書と支給申請書を出す。
- 労働局が額を確定し、助成金が支払われる。
助成金も後払いなので、設備代はいったん全額を御社が立て替えます。補助金の入金までの資金の考え方は補助金を受け取るまでの資金繰り対策で取り上げています。
出典:業務改善助成金交付要綱(令和8年度)第5条・第13条
補助金と組み合わせるときの注意点
業務改善助成金は、同じ経費に国や地方公共団体の補助金を重ねて使うことはできません。交付要綱は、助成の対象の経費について国や地方公共団体から補助金などを受けている場合は交付しないとしています。
一方で、経費を分ければ組み合わせられます。たとえば、時給の引上げに合わせて業務改善助成金で受発注のシステムを入れ、別の機械は省力化投資補助金で入れる、という分け方です。どちらの申請書にも、もう片方で使う経費を入れないようにします。
時給の引上げそのものは、持続化補助金や省力化投資補助金の賃上げの特例や加点の条件にも関わります。同じ引上げを複数の制度で使うときは、引上げの時期と基準の日が制度ごとに違うので、引上げの日付と金額を一覧にして確かめます。
出典:業務改善助成金交付要綱(令和8年度)第4条第4項
補助金どうしの併用のルールは補助金の併用・同時申請のルールで取り上げています。
専門家から見たポイント
業務改善助成金が向いているのは、時給を上げる必要があり、同時に人手不足を設備で補いたい会社です。補助金の採択事例でも、生産性・人手不足を課題に挙げた事例は全体の27.0%あり、デジタル化・AI導入補助金の事例では94.6%を占めました。
人手不足を課題に挙げる会社の多くは、受発注・予約・在庫などの事務の時間を減らす投資をしています。業務改善助成金の対象の例も同じ種類の投資なので、時給の引上げの予定がある会社は、補助金より先にこの助成金が使えないかを考えると、助成率の高さを生かせます。
使いやすい会社
パートやアルバイトの時給が地域別最低賃金に近く、最低賃金の改定で引上げが避けられない飲食・小売・介護などの会社です。どうせ上げる時給の引上げに、設備投資の助成を組み合わせられます。
慎重に考えたい会社
引上げ後の人件費の増加を、設備による時間の短縮で吸収できるか見通せない会社です。引上げは一度きりではなく、その後も下げられないので、設備で減らせる作業時間と、増える人件費を年額で比べてから申請します。
業種ごとの採択事例は採択事例のデータから探せます。
間違えやすい点
間違えやすいのは、導入の時期、申請期間、引き上げる人の範囲の3つです。
交付決定の前に設備を導入すると、その設備は助成の対象になりません。見積を取って申請し、交付決定の通知が届いてから発注します。
申請期間は地域別最低賃金の発効日に連動していて、都道府県によって締切が違います。発効日の早い県では受付が9月中に終わることがあります。
引上げの対象は、週20時間以上働く雇用保険の加入者です。短時間のアルバイトだけを上げても、コースの人数に数えられない場合があります。
交付決定前の発注が対象外になる理由は交付決定前の発注・契約で取り上げています。
よくある質問
個人事業主でも申請できますか?
雇用している労働者がいれば申請できます。労働者がいない場合は、時給を引き上げる相手がいないので対象になりません。
事業場が2つある場合はどうなりますか?
申請は事業場ごとに行います。ほかの事業場で申請しているかどうかは、申請書の欄に書きます。
パソコンは対象になりますか?
一般の事業者は原則として対象外です。物価高騰等要件に当てはまる特例事業者は、新規の導入に限り対象になります。
申請の手続きを専門家に頼めますか?
社会保険労務士などの専門家に、手続きの相談や書類の作成を頼めます。厚生労働省は、労働局が特定の業者に勧誘を任せることはないとして、手数料目的の勧誘に注意を呼びかけています。
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