社会実装参画による多摩イノベーション創出事業|大学との共同開発の助成
この記事の要点
大学や研究機関の研究成果を使い、共同で製品や技術を開発して世に出したい都内の中小企業と大学発ベンチャーが使える東京都中小企業振興公社の支援です。利用申請から助成の審査までの順番、対象経費、契約の条件と間違えやすい点を募集要項で整理しました。
社会実装参画による多摩イノベーション創出事業は、大学や研究機関の研究成果をもとに、都内の中小企業が共同で製品や技術を開発し、市場に出すまでを東京都中小企業振興公社が支える事業です。コーディネーターの伴走支援と、開発費の助成がセットになっています。
助成の上限は5,000万円、助成率は助成対象経費の3分の2以内で、先に利用申請をして支援の対象に決まった案件だけが助成を申請できます。
大学の研究室と組んで技術を製品にしたい会社や、大学発ベンチャーが、この事業を使えるか、どの順番で何を用意するかを知りたい方に向けた記事です。内容は公社の公式ページと募集要項に沿っています。
東京都の社会実装参画による多摩イノベーション創出事業とは?
「社会実装」は、研究の成果を実際の製品やサービスとして世の中で使われる形にすることです。この事業は、実用化の見通しが立った研究成果を、中小企業が大学などと一緒に製品化・改良・実証する段階を対象にしています。担当は公社の多摩支社ですが、募集要項には開発拠点を多摩地域に置く条件は書かれていません。
助成の対象は大学・研究機関等と共同開発を行う都内中小企業、都内の大学発ベンチャーです。大学だけで申請することはできず、申請者は必ず中小企業(または大学発ベンチャー)になります。
申請する中小企業には、次の条件があります。
- 都内に登記上の本店か支店があり、都内で1年以上実際に事業をしていること(都内で創業して1年に満たない会社も可)
- 大企業が株式の半分以上を持つなど、実質的に大企業が経営に加わっていないこと
- 共同で開発する大学などと、資本関係や役員の兼務がないこと
- 開発が、御社にとって新しい事業や新しい市場への進出に当たること
大学発ベンチャーは、研究者が所属している、大学から技術の移転を受けているなど、大学と深い関係があることが条件です。大学発ベンチャーが代表になる場合、共同開発の相手に大学を置くことはできません。公社のほかの助成と比べたいときは、東京都中小企業振興公社の助成金一覧で制度ごとに整理しています(東京都中小企業振興公社「令和8年度 社会実装参画による多摩イノベーション創出事業 募集要項」 p.9『申請者の要件』)。
利用申請から助成の交付決定までの順番は?
この事業は「伴走支援の対象に決まる」段階と「助成の審査」の段階に分かれています。助成だけを申し込むことはできません。
- エントリーフォームを出し、担当者の聞き取りを受ける。大学などと独自に話がまとまっている案件も対象です。
- 利用申請書を出して利用審査を受ける。今年度の利用申請の期限は2026年9月10日(木)で、支援対象案件決定通知を受けた案件だけが次に進めます。
- 大学などと共同開発の契約を結ぶ(結ぶ予定でも可)。
- Jグランツで助成を申請する。受付は申請期限 2026年11月10日(電子申請)までです。ログインに使うGビズIDプライムは発行に2週間程度かかり、手順はGビズIDプライムの取り方で取り上げています。
- 書類の一次審査のあと、面接の二次審査に進む。面接は対面が原則で、大学などの共同開発者も出席します。
- 総合審査を経て、2027年3月1日(予定)に交付が決まる。
- 助成対象期間(2027年3月1日から最長2年間(予定))の中で開発し、1年を超える場合は中間報告と中間検査を受ける。
- 完了から15日以内に報告し、完了検査で額が確定してから請求する。
利用申請の期限を過ぎてから動き出した会社は、今年度の助成には申請できません。次の年度の募集に向けて、早めにエントリーして大学との話を詰めておくのが近道です(東京都中小企業振興公社「令和8年度 社会実装参画による多摩イノベーション創出事業 募集要項」 p.7『助成対象事業』)。
どんな共同開発と経費が対象になる?
対象は、大学などの研究成果を使った製品化に向けた共同開発・改良・実証で、技術的な開発の要素があるものです。基礎研究や理論づくりの段階、既存の技術を組み合わせるだけのサービス、片方だけが開発する計画や開発の主な部分を第三者に任せる計画は対象外です。
大学などとの契約には、開発の中身・目的・期間・経費の負担、役割分担、成果の帰属を書く必要があります。研究委託、学術指導、単純な売買や業務委託の契約は共同開発の契約として認められません。
| 経費の区分 | 中身の例と条件 |
|---|---|
| 原材料・副資材費 | 開発に直接使う材料。受け払いの記録が要る |
| 機械装置・工具器具費 | 試験装置や測定機器。中古品は対象外 |
| 委託・外注費 | 大学などとの共同研究開発、外部の委託・外注、技術指導、規格の認証・登録 |
| 直接人件費 | 開発に直接かかわった時間の人件費。直接人件費は1,000万円まで(助成対象期間中の総額) |
| 産業財産権出願・導入費 | 特許の調査・出願・審査請求、実施許諾を受ける費用 |
| 不動産賃借料 | 試験・評価に必要な施設の賃借料。不動産賃借料は500万円まで |
出典:東京都中小企業振興公社「令和8年度 社会実装参画による多摩イノベーション創出事業 募集要項」 p.12『助成対象経費』
間接経費は原則対象外ですが、大学の産学連携経費などは、見積書に明記されていれば直接経費の30%を上限に対象です。1件100万円(税抜)以上の機械や委託には2社以上の見積が必要です。量産用の設備も対象外のため、量産の段階は国の制度を比べます。中身は新事業進出・ものづくり補助金の概要で取り上げています。
間違えやすい点
大学との共同開発ならではの手続きと、助成金が後払いである点で、つまずきやすくなります。
利用申請をせずに、助成の申請だけを出すことはできません。支援対象案件決定通知を受けていることが、助成を申請する条件です。
助成対象期間が始まる前に支払った経費は対象外です。大学との契約の日付と支払いの時期は、交付決定に合わせて決めます。
助成金は後払いで、目標を達成できなかった場合は交付されません。中間検査が終わった時点でも支払いはありません。
公社のほかの助成との併願はできず、申請は1つの案件につき1件、同じ年度に1社1件までです。国などの助成と同時に申請することはできますが、両方に決まったらどちらかを辞退します。事業化で相応の収益が出た場合は、収益の一部を納める決まりもあります。交付決定前の支払いが対象外になる理由は交付決定前の発注・契約が対象外になる理由で取り上げています(東京都中小企業振興公社「令和8年度 社会実装参画による多摩イノベーション創出事業 募集要項」 p.28『経費の支払い』)。
専門家から見たポイント
上限が大きく、人件費や施設の賃借料まで入る点で、大学の研究成果を製品にする段階では使い道の広い制度です。その分、大学との役割分担と契約の中身が、計画の土台として厳しく見られます。
向いている会社
大学の研究室と話が進んでいて、研究成果がすでに試作や実証の手前まで来ている会社です。面接審査では事業の趣旨に合うか、新しさ、優秀性、市場性、実現性、計画の妥当性が見られるため、成果の帰属や役割分担を契約で詰めている会社ほど説明に説得力が出ます。
実証のために試験場や評価用の施設を借りる必要がある会社にとっては、施設の賃借料まで経費に入る点が、ほかの開発助成にない使いやすさです。
迷う会社
大学とまだ接点がない会社は、公社のマッチングから始めることになり、助成までに時間がかかります。研究そのものを大学に頼みたい計画や、既存の事業の延長に当たる開発は、この事業の形に合いません。試作前の技術検証から始める制度や、ほかの開発の助成と比べるなら、開発費・試作品開発費に使える補助金で段階ごとに取り上げています。
共同開発の契約は、助成の審査の前に中身が固まっている必要があります。大学の産学連携の窓口は手続きに時間がかかることが多いため、契約書の案を早めに出してもらいます。
御社の共同開発が対象に入るか、大学との契約の形をどう整えるかは、専門家に無料で相談できます。
よくある質問
多摩地域の会社でなくても申請できる?
募集要項には、多摩地域に拠点を置く条件は書かれていません。都内の中小企業であれば対象になり得ます。開発を行う場所は原則都内で、首都圏も認められる場合があります。
大学がまだ決まっていなくても相談できる?
できます。大学や研究機関の側からマッチングの希望を受け付けており、公社が候補を紹介します。
大学への研究委託の費用は対象?
研究委託や学術指導の契約は、共同開発の契約として認められません。共同で開発し、役割分担と成果の帰属を決めた契約が必要です。
面接審査には誰が出る?
申請する会社と、共同開発者の大学などが出席します。遠方の共同開発者はオンラインで参加できる場合があります。
同じ年度にほかの公社の助成も申請できる?
同じテーマで公社のほかの助成に同時に申請することはできません。テーマが違う場合の扱いは、それぞれの募集要項で確かめます。
補助金全般の疑問はよくある質問のページにもあります。
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