刃物の工房を広げて仲間を迎え、伝統の技を次の代へつなぐ
隈部刃物製作所
熊本県の伝統的工芸品の刃物鍛冶(従業員4名)国が公開している採択事例です
この事例のポイント
- 1921年から続く刃物の工房を、父と8年間一緒に働いたうえで引き継いだ。
- 事業承継の塾への参加をきっかけに補助金を知り、承継を機に工房の変革に取り組んだ。
- 補助金の申請書づくりで中期の計画を言葉にし、新しく加わった仲間と目標を共有した。
- 作業場の拡張と機械の導入で、人を増やして作れる数を増やす土台をつくった。
事業の経緯
1921年に現代表の曾祖父が刃物づくりを始め、戦後は鉈や包丁、農工具を中心に作ってきた。2006年には県の伝統的工芸品に指定された。現代表は大学を出てすぐ家業に入り、父の仕事を見て覚えながら技を身につけた。
入社から約8年たったころ父から承継の話が出て、県の後継者育成塾に参加した。そこで補助金を紹介され、承継を機に事業を変える計画を立てた。2024年1月に事業を引き継ぎ、作業場の拡張と機械の導入、新しい仲間の採用を進めた。
事業の内容
- 課題:地元中心の販売販売先が地元に限られ、地元の人に使ってほしいという思いが強いあまり、時代に合わせて商売の形を変えることが後回しになっていた。業界全体では鍛冶職人の高齢化が進み、事業者の数も減っている。
- 課題:二人体制の限界父と二人で製作しており、これまでのやり方のままでは製作を続けることに限界があった。
- 取り組み:承継の準備と補助金の活用県の事業承継・引継ぎ支援センターが開く後継者育成塾に参加した。承継を機に事業を変えたいと伝えたところ、県の商工会連合会の指導員から事業承継・引継ぎ補助金を紹介された。地元の商工会は承継の前から販路開拓を支え、ホームページの作成や販路計画づくり、申請書類の確認を手伝った。
- 取り組み:作業場の拡張と機械の導入工房で働く人を増やすことを見すえて作業場を広げる工事を行い、機械設備を入れた。人の手で行う作業と機械にまかせる作業を見直し、働きやすい環境に変えることが一段階目のねらい。人手を増やして生産性を高め、作れる製品の数を増やして販路の拡大につなげることが二段階目のねらい。
- 取り組み:仲間の募集と販路開拓手仕事の情報サイトで仲間を募り、インターンシップを経て採用した。大都市圏の展示会に出向き、バイヤーや料理人の声を聞きながら作る商品の種類を考えている。
補助金を使った経費
記事の内容から、事業承継・M&A補助金の経費区分にあてはめた区分です。
| 設備費 | 作業場の拡張工事 |
|---|---|
| 設備費 | 機械設備 |
事業の効果
- 仲間の募集に全国から70名を超える応募があった。
- 8名のインターンシップを受け入れ、そのうち3名を採用した。美術系の大学で金属加工や木工を学んだ人も加わった。
- 申請書づくりを通じて中期の事業計画ができ、仲間と目標を共有する材料になった。
事業者の声
地元の人に使ってほしいという想いに偏っていて、商売の形態を時代の変化に合わせて変えていくことが後回しになりがちです。結果として地域全体の産業として見ると、衰退につながっているように感じます。
大企業が低コストで製品を大量に生産することで応えられる顧客ニーズと、小規模事業者が職人の技能によって対応する細かな顧客のニーズは、そもそもニーズの種類が異なります。自分たちが顧客に製品を売っていこうとする中で、どの種類のニーズに応えていくべきかという選択の問題だと思っています。
職人である父の仕事を見て覚え、自分でやってみることで覚え、顧客から販売した製品に対する意見をもらって技能を習得してきました。特に、顧客からもらう意見の量が職人の成長に大きな影響を与えると考えます。
狩猟用のナイフを作って欲しい。今はこういうものを使っていて、刃の部分はこういう長さと形状で、握り手の部分はこういう素材にして欲しい。あわせて、皮のケースも作って欲しい。このように商売の大事な道具づくりを相談してくれる顧客がいます。こういう相談はわれわれが断ったら、顧客はどこにも相談を持っていくところが無くなってしまう。
自分ひとりで仕事のことを考える際、どうしても職人寄りの視点で、ものづくりと顧客のことを考える傾向にあります。そういったシーンで、他の経営者からは、作った道具を見込み客に使ってもらう経験をしてもらってはどうか、というような自分では思いつかないアドバイスをもらったことがありました。
父としても、口頭では説明しづらい所があったと思います。8年の歳月をかけて一緒に現場で働き、仕事を通じて父から事業を学んだことがスムーズに承継に至った理由だと思います。また、事業承継の話が出る前から、商工会が主催するセミナーや勉強会に参加させてもらい、経営に必要な理念などのテーマを考える機会を持てたことも良かったと思います。
事業承継・引継ぎ補助金の申請に必要な書式が、実にうまく作られていました。事業の現状を見つめなおした上で、何を、どのくらい、どう変えていきたいかを文章化して記入する流れになっていました。否が応でも事業の現状と向き合わなければならない。そして、自分の頭の中で考えていることを言語化する意味を感じることができました。
工房で働く人を増やしていくことを念頭に作業場を拡大の上で機械を導入し、人の手作業と機械ができる作業の見直しを行うことで、人が働く上でより良い環境に変えていきたいというのが一段階目の変革の構想でした。人手を増やすことも含めて生産性の向上を実現できれば、作れる製品の数も増え、販路の拡大にも繋げることができるというのが二段階目の変革の目標です。
美術系の大学で金属加工や木工技術を学んだ仲間が一緒に働いてくれることになりました。
計画を作成していなかったら、事業そのものが行き当たりばったりになっていたと思います。そして、向かっていくべき未来の方向性がイメージできなくなっていく。それが自分ひとりの中であれば仕方ないと割り切れるとしても、仲間と一緒に未来を目指す上ではダメです。3人と一緒に働きながら、何が大事なのかを伝え、隈部刃物の工房で共に働く仲間がともに成長していく未来をイメージしていくことが大事だと思っています。
熊本県の伝統的工芸品の刃物鍛冶(従業員4名)
出典
- 中小機構「補助金活用ナビ」の事例記事(当社が書き直し・要約。事業者の声は記事中の発言の引用です)
- 経費区分は、事業承継・M&A補助金の公募要領の区分に当社があてはめたものです
- 採択率:中小企業庁「採択結果」(15次)
相談先と計画づくり
| 県などの公的支援機関 | 熊本県事業承継・引継ぎ支援センター |
|---|---|
| 商工会 | 熊本県商工会連合会 |
| 商工会 | 美里町商工会 |
事業の現状を見つめ直し、何をどれだけどう変えたいかを文章にした。作業場を広げて機械を入れ、働く環境を整える段階と、人を増やして製品数と販路を広げる段階の二つに分けて中期の計画にまとめた。
今後の展望
お客さまの声を聞きながら、作れる商品の数と種類を増やしていく。中期の計画を仲間と共有し、ともに成長できる工房をめざす。ものづくりへのこだわりをSNSなどで外へ伝えていきたい考え。
この事例の取り組み
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