事業承継・M&A補助金の採択後の手続き|不成約・賃上げ未達と報告義務
この記事の要点
事業承継・M&A補助金は採択後、交付決定を経て補助事業を終え、実績報告の後に精算払いで入金されます。採択された社長向けに、M&A不成約時の上限300万円、賃上げ未達の返還、1〜5年の事業化状況報告をまとめます。
この記事の目次
事業承継・M&A補助金は、採択の後に交付申請、交付決定、補助事業、実績報告、金額の確定を経て、最後に精算払いで受け取ります。
16次公募の補助事業期間は2027年1月下旬から14か月以内の想定で、M&Aがその期間に成約しなかった場合、専門家活用枠の上限は300万円に下がり、原則としてDD費用だけが対象になります。
受け取った後も枠に応じて1〜5年の事業化状況報告があり、上限を1,000万円に引き上げた会社が3%以上の賃上げを達成できないと、引き上げ分(最大200万円)の返還を求められます。
事業承継・M&A補助金に採択された、または16次公募に申請して結果を待っている社長に向けた記事です。採択後に出す書類と期限、M&Aが成約しなかったときの扱い、入金の時期、賃上げ未達や報告漏れで返還になる場面を、16次公募の公募要領(2026年9月 Ver.1.0)と事務局の公式サイトをもとに整理します。枠の選び方や申請の要件は事業承継・M&A補助金16次公募の記事にまとめています。
事業承継・M&A補助金は採択後どう進む?交付決定から補助事業期間まで
採択の後は交付申請をして交付決定を受け、その日以降に契約・発注・支払いをして、補助事業期間内に事業を終えます。
採択の通知はJグランツ(国の補助金の電子申請システム)に届きます。事務局の公式サイトによると、15次公募では採択発表(2026年9月11日)と同じ日に交付申請の受付が始まりました。交付申請もJグランツで行い、「交付申請の手引き」に沿って交付申請書(様式第1)や見積依頼書を出します。
採択から入金までの流れは次のとおりです。
- 採択通知:Jグランツで採択・不採択が通知されます。
- 交付申請:見積は原則2者以上から取ります。1件50万円以上(税抜)の発注は相見積が原則で、外注費・委託費は50万円未満でも原則として相見積が要ります。
- 交付決定:交付決定(事務局から「この内容で補助します」と正式に通知されること)の通知書を受け取ってから着手します。
- 補助事業期間:16次公募は2027年1月下旬から14か月以内の想定です。契約・発注・支払いをすべてこの期間に収めます。
- 実績報告:事業を終えたら、使った経費の証拠書類をそろえて報告します。
- 確定検査と精算払い:事務局が補助金の額を確定してから振り込まれます。
- 事業化状況報告:入金後も、枠に応じて1〜5年間、毎年報告します。
補助事業期間の途中でも、届出が要る場面があります。経費区分の間で金額を動かすなど計画を変えるときは「計画変更(等)承認申請書(様式第3)」で事前に承認を受けます。申請内容を変えるときは「補助金登録変更届(様式第16)」、事業を続けられず辞退するときは「事故報告書(様式第4)」を出します。事業承継促進枠では、事務局から指示があれば「状況報告書(様式第5)」で進み具合を報告します。
交付決定の前に結んだ契約や発注は、補助の対象になりません。採択の通知が来ても、交付決定通知書を受け取るまでは仲介会社との契約や設備の発注を待ちます。理由は交付決定前の発注がNGな理由にまとめています。
出典:事業承継・M&A補助金 16次 事業承継促進枠 公募要領 p.38『16. 採択及び交付決定』
M&Aが補助事業期間内に成約しなかったらどうなる?
専門家活用枠では、期間内にクロージングしなかった場合も補助は受けられますが、上限が下がり、対象経費は原則DD費用などに絞られます。
クロージングとは、最終契約に基づいて株式や事業の引き渡しと代金の支払いを終えることです。DD(デュー・ディリジェンス)は、買収先の財務や法務を専門家が調べることを指します。成約した場合と、しなかった場合の上限と対象経費を類型ごとに並べたのが次の表です。
| 類型 | 成約した場合の上限 | 成約しなかった場合の上限 | 成約しなかった場合の対象経費 |
|---|---|---|---|
| 買い手支援類型 | 600万円(DD実施で+200万円) | 300万円 | 原則DD費用のみ |
| 売り手支援類型 | 600万円(DD実施で+200万円) | 300万円 | 原則DD費用とシステム利用料 |
| 買い手支援類型 100億企業特例 | 2,000万円 | 300万円 | 原則DD費用のみ |
| 小規模売り手支援類型 | 450万円 | 50万円 | 着手金、システム利用料、DD費用 |
廃業費を併用している場合、関連する引継ぎが期間内に実現しなかったときは、廃業費は対象外になります。PMI専門家活用類型を同時に申請した買い手も、M&Aがクロージングしなければ、PMI費用は対象外です。
どこまで進んだかで出す書類が変わる
実績報告では、交渉がどこまで進んだか(マイルストーン)に応じて書類を出します。専門家と契約しただけの「着手」の段階は補助対象外です。基本合意書まで進めば専門家の作成資料と基本合意書の写し、最終契約書まで進めば最終契約書の写しを出します。
成約しなかった場合は、これに加えて「未成約時の追加報告書(様式第19)」を出します。中身は、成約しなかった要因の分析、期間後に引継ぎを進める計画、その取組を事後に報告するという宣誓です。この届出を出しても補助金の交付が約束されるわけではありません。事後の報告をしないと、交付後でも交付決定を取り消され、似た補助事業に申請できなくなることがあります。
買い手支援類型で、相手の事情ではなく申請者の一方的な都合でM&Aを取りやめたと事務局が判断した場合、すべての経費が対象外になり、交付後でも交付決定を取り消されることがあります。災害など申請者の責任でない理由がある場合は除かれます。
成功報酬は期間内に払い終える
仲介会社への成功報酬は、専門家との契約、最終契約、成功報酬の支払いの3つがすべて補助事業期間内にあるときだけ対象です。最終契約が期間内でも、支払いが期間後にずれ込むと対象外になります。期間が始まる前に最終契約を結び、覚書で契約日を期間内に延ばすやり方も、期間内の最終契約とは認められません。
親族・社員への承継が期間内に終わらない場合
事業承継促進枠は、承継そのものが補助事業期間内に終わらなくても構いません。16次公募の事業承継対象期間は2031年11月5日までで、その間に経営権と株式などの所有権の両方を後継者に移します。事業化状況報告で予定の時期に承継が終わっていないとわかると、承継計画の出し直しを求められます。応じない場合や、承継が見込めないと事務局が判断した場合は、交付額を上限に返還を求められます。
出典:事業承継・M&A補助金 16次 専門家活用枠 買い手・売り手支援類型 公募要領 p.41『16.2. 交付決定後の注意』
補助金はいつ入金される?実績報告から精算払いまで
補助金は事業を終えて実績報告を出し、事務局が金額を確定した後に振り込まれる精算払いなので、経費はいったん全額を自社で立て替えます。
実績報告の期限は、事業の完了日から30日を経過した日と、交付決定通知書にある完了期限日から10日を経過した日の、早いほうです。期間いっぱいまで事業を続けた会社は、完了期限日から10日ほどしか余裕がありません。事務局は報告の中身を検査して補助金の額を確定し、その後に支払います。
16次公募の補助事業期間は2027年1月下旬から14か月以内の想定なので、期間を使い切ると実績報告は2028年春ごろになります。公募要領には、確定から振込までの日数は書かれていません。事務局の公式サイトでは、12次公募の実績報告の締切を2026年10月21日(水)17時と案内し、締切後は提出できないとしています。
入金が遅れたり減ったりするのは、次のようなときです。
- 報告に不備があり、補正の期限までに直せなかった経費は減額されることがあります。
- 公募要領で求める書類がそろわない経費は、原則として支払われません。事情があるときの相談は補助事業期間中に限られ、期間後は受け付けられません。
- 支払方法や支払者に不備がある経費も、減額される場合があります。
見積書、発注書、請求書、領収書は取引ごとに、交付決定通知書と一緒に時系列で保管しておくと、報告が早く終わります。立て替えの資金が足りない会社は、つなぎ融資を早めに金融機関に相談します。入金の流れは補助金はいつ入金されるかの記事にもまとめています。
補助金は、受け取った事業年度の収益として計上し、法人税などの課税対象になります。設備費で機械などを買った場合の税負担の調整は補助金の圧縮記帳で確かめてください。
出典:事業承継・M&A補助金 16次 事業承継促進枠 公募要領 p.40『17.1. 補助金の交付』
賃上げ要件を達成できなかったら返還が必要?
上限を1,000万円に引き上げた会社が3%以上の賃上げを達成できないと、引き上げ分(最大200万円)の返還を求められ、加点だけの2%賃上げなら返還ではなく減点になります。
上限を引き上げた場合(事業承継促進枠、PMI推進枠の事業統合投資類型)
この2つの枠は、従業員1人当たりの給与支給総額を3%以上上げると表明すれば、上限が800万円から1,000万円になります。比べるのは、補助事業が終わった日を含む事業年度(基準年度)と、その翌年度です。基準年度の1人当たり給与支給総額が400万円なら、翌年度に412万円以上が必要です。
達成したかは事業化状況報告の時点で確かめます。未達なら上限の引き上げ額(最大200万円)の返還を求められます。翌年度に達成しても、事業計画期間中の各事業年度末でその水準を保てなかった場合も同じく返還です。天災など、事業者の責任でない理由があれば返還は求められません。
ここでいう従業員には、パートやアルバイトも含みます。会社の役員と同居の親族は含まず、その年度に全月分の給与を受けた人だけを数えます。
返還や減点になる主な場面
賃上げのほかにも、採択後の約束を守れないと返還や減点になる場面があります。主なものを表にまとめました。
| 守れなかったこと | 対象の枠 | どうなるか |
|---|---|---|
| 3%以上の賃上げ(上限1,000万円の条件) | 事業承継促進枠、事業統合投資類型 | 引き上げ額(最大200万円)を返還 |
| 2%以上の賃上げ(加点の条件) | 加点を受けて採択された枠 | 未達の報告から18か月、中小企業庁の補助金で大幅に減点 |
| 被承継者の従業員の雇用を3年間維持 | 100億企業特例 | 会社都合で減った場合、減少率に応じて返還 |
| 事業承継対象期間内の承継 | 事業承継促進枠 | 計画の出し直しに応じない等の場合、交付額を上限に返還 |
| 事業化状況報告の提出 | 全枠 | 出さない・虚偽の場合、交付決定の取消しと返還 |
出典:事業承継・M&A補助金 16次 事業承継促進枠 公募要領 p.20『10. 補助上限額、補助率等』
18か月の減点は、デジタル化・AI導入補助金、小規模事業者持続化補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助事業などにも及びます。加点を受けたのに事業化状況報告を出さないと、それだけで未達とみなされます。災害などでやむを得ず未達になったときは、事業化状況報告で理由を説明し、認められれば減点を免れます。返還になる場面を制度横断で知りたい場合は採択後に減額・返還になるケースを読んでください。
事業化状況報告は何年、いつ出す?
事業化状況報告は、各事業年度の終了後90日以内に、事業の成果と賃上げの状況を、枠に応じて1〜5年間続けて事務局に出すものです。
初回は、補助事業が終わった日を含む事業年度の分です。申請した時点で確定した決算が1期も無かった会社は、その翌事業年度の分から数えます。3月決算の会社なら、毎年6月下旬が提出期限の目安です。報告する年数は枠ごとに違います。
| 枠・類型 | 報告する年数 |
|---|---|
| 事業承継促進枠 | 5年間 |
| 専門家活用枠(買い手・売り手・100億企業特例・小規模売り手) | 3年間 |
| PMI推進枠 PMI専門家活用類型 | 3年間 |
| PMI推進枠 事業統合投資類型 | 5年間 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 1年間 |
専門家活用枠は、M&Aが成約しなかった場合も3年間の報告があります。報告をしない場合や虚偽の数字を出した場合は、交付決定を取り消され、補助金の返還を求められます。
報告のほかにも、入金後に続く義務があります。
- 帳簿と証拠書類は、事業が終わった年度の終了後5年間保存します。
- 事業承継促進枠と事業統合投資類型では、1件50万円以上(税抜)で買った財産を一定期間は事務局の承認なしに売ったり捨てたりできません。売って収入があれば、補助金の一部の納付を求められることがあります。
- 事務局や会計検査院が実地調査に来ることがあり、返還を命じられれば従います。
- 交付後に、法人名、代表者名、テーマ名などが公表されることがあります。
出典:事業承継・M&A補助金 16次 事業承継促進枠 公募要領 p.40『17.2. 補助金交付後の補助事業者の義務』
この補助金のポイント
採択後に困らないのは、相手と時期が固まっていて、補助事業期間の14か月で成約から支払いまで終えられる会社です。
向いている会社は、承継やM&Aの相手と時期がすでに決まっている会社です。専門家活用枠の審査では、買い手に「経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるか」と「財務内容が健全か」を見ます。相手探しから始める段階だと、成約しないまま期間が終わり、上限が300万円に下がる可能性が高くなります。
採択されるために効く点は、審査項目の「実現可能性」に、期間内に終わる段取りで答えることです。事業承継促進枠の審査項目は、取組の目的・必要性、実現可能性、収益性、継続性の4つです。賃上げは、上限を引き上げるために表明すると、達成できなかったとき返還につながります。基準年度の翌年度に3%を払える見込みがあるかを、表明の前に人件費の計画で確かめます。
よくある失敗は、成功報酬の支払いが補助事業期間の後にずれ込むことと、交付決定前に契約してしまうことです。どちらも経費が丸ごと対象外になります。仲介会社との契約書に、基本合意時の中間報酬、最終契約時の成功報酬を払う旨が書かれているかも確かめます。
補助事業期間、上限額、報告年数などは公募回ごとに変わるため、最新の公募要領で確認が必要です。数字の根拠は事業承継・M&A補助金の公募要領の台帳にまとめています。
よくある質問
補助事業期間中にM&Aが成約しなかったら、補助金はもらえない?
一部はもらえます。専門家活用枠の買い手・売り手支援類型と100億企業特例は上限300万円、小規模売り手支援類型は上限50万円になり、対象は原則DD費用などに絞られます。実績報告では「未成約時の追加報告書(様式第19)」も出します。専門家と契約しただけで基本合意に至らなかった段階は対象外です。
補助金はいつ受け取れる?
事業が終わり、実績報告を出して金額が確定した後です。16次公募の補助事業期間は2027年1月下旬から14か月以内の想定なので、期間を使い切ると実績報告は2028年春ごろになります。それまでの経費は自社で立て替えます。
賃上げ要件を達成できなかったら返還が必要?
上限を1,000万円に引き上げた場合は、引き上げ額(最大200万円)の返還を求められます。対象は事業承継促進枠とPMI推進枠の事業統合投資類型です。加点だけの2%賃上げが未達なら、返還ではなく18か月の減点になります。天災など事業者の責任でない理由があれば、返還は求められません。
補助金を受け取った後も報告は必要?
必要です。各事業年度の終了後90日以内に事業化状況報告を出し、年数は事業承継促進枠と事業統合投資類型が5年間、専門家活用枠とPMI専門家活用類型が3年間、廃業・再チャレンジ枠が1年間です。出さないと交付決定の取消しと返還の対象になります。
採択された後に辞退できる?
できます。交付申請の前なら事務局に申し出ます。交付決定の後に事業を続けられなくなった場合は、Jグランツで「事故報告書(様式第4)」を出して事務局の指示を受けます。
仲介会社の成功報酬を補助事業期間の後に払ったら?
補助の対象になりません。成功報酬は、専門家との契約、最終契約、支払いのすべてが補助事業期間内にあるときだけ対象です。クロージングの日程を組むときに、支払日が期間内に収まるかを仲介会社と確かめます。
ほかの質問はよくある質問(事業承継・M&A補助金)にまとめています。
まとめ
採択後に最初にやることは、交付決定通知書を受け取るまで契約と発注を止め、補助事業期間内に成約から支払いまで終わる日程を組み直すことです。入金は実績報告の後なので、立て替えの資金と、1〜5年続く事業化状況報告の担当者を今のうちに決めておきます。手続きや返還の心配があれば、使えるか・採択されるかは、専門家がお答えします。
参考資料
- 事業承継・M&A補助金事務局 公式サイト(お知らせ:採択発表、交付申請、実績報告の締切)
- 事業承継・M&A補助金事務局「15次公募 専門家活用 交付申請手続き」
- 事業承継・M&A補助金事務局「16次公募 事業承継促進枠 公募要領」Ver.1.0(2026年9月)
- 事業承継・M&A補助金事務局「16次公募 専門家活用枠 買い手支援類型・売り手支援類型 公募要領」Ver.1.0(2026年9月)
- 事業承継・M&A補助金事務局「16次公募 専門家活用枠 100億企業特例 公募要領」Ver.1.0(2026年9月)
- 事業承継・M&A補助金事務局「16次公募 専門家活用枠 小規模売り手支援類型 公募要領」Ver.1.0(2026年9月)
- 事業承継・M&A補助金事務局「16次公募 PMI推進枠 PMI専門家活用類型 公募要領」Ver.1.0(2026年9月)
- 事業承継・M&A補助金事務局「16次公募 PMI推進枠 事業統合投資類型 公募要領」Ver.1.0(2026年9月)
- 事業承継・M&A補助金事務局「16次公募 廃業・再チャレンジ枠 公募要領」Ver.1.0(2026年9月)
確認日:2026年10月13日
中小企業診断士 神谷 恒一が内容を確認しました(2026年10月13日)。
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一覧へ公開 2026/10/13
要点事業承継・M&A補助金16次公募の締切は2026年11月6日17時。承継後の設備投資、M&Aの仲介手数料、統合、廃業の4枠の上限・補助率と、同じ回に申請できる組み合わせ、締切までの準備をまとめます。
公開 2024/10/21
要点2024年10月11日、令和6年度第2回事業承継支援助成金の公募が開始しました。東京都内の中小企業が円滑な事業承継を進めるための重要な支援策です。後継者不在の企業や、経営改善を目指す企業が、外部専門家の支援を受けるための…
